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AppleはiTunes Storeの審査基準を早く国別に定めるべき

水曜日, 5月 12th, 2010

講談社がAppleのiTunes Storeに申請した電子書籍のうち、約30%がリジェクトされたようです。それも、日本で許容される表現がAppleの基準では不可。詳しくはこちらの記事を参照してください。

以前、アダルトアプリがiTunes Storeから一斉削除されて話題になりましたが、日本でまったく問題ない表現さえ許容されないとなると、Appleファンの私でもさすがに頭を抱えます。iPadは日本でも大ブレイクしそうですし、日本においてマンガはiPadを購入する大きな動機づけとなるだけに、Appleのこの方針は残念でなりません。

Appleは、米国一律の基準を国別の基準に早く改めるべきです。文化は当然国ごとに異なるわけですから、一律の基準を押し付けるのは少々無理があると言えましょう。iTunes Storeで入手できるアプリは国別に違うわけですし、審査基準を国ごとに設けることぐらい造作もないはずです。そうしないと、出版社はiPhone/iPad向けにコンテンツを提供することに腰が引けてしまいますし、そもそもマンガ家の方々がiTunes Storeにコンテンツを出品しなくなるでしょう。

追記:
以前、hon.jpでこんな記事が流れました。

私は「検閲」に対して基本的に反対ですから、アダルト専用カテゴリの設置には賛成票を投じます。また、マンガの中には青少年向けとして不適切なものがありますから、これらもアダルト専用カテゴリに入れてしまえばよいでしょう。こちらについても、Appleには早急に対応していただきたいものです。

EPUB 2.1ドラフト0.10が公開

土曜日, 5月 8th, 2010

問題点が1つ追加されたドラフト0.10

国際電子出版フォーラム(IDPF)が、EPUB 2.1のドラフト0.10を4月27日に公開していたようです。ドラフト0.8が公開されたのは4月6日ですから、この速さには少々驚きです。

ドラフト0.8では問題点が13項目列挙されていたのに対して、ドラフト0.1では14項目に増えています。以下、ざっと紹介しましょう。

  1. リッチメディアやインタラクティビティのサポート
  2. 日中韓などの言語に対するサポートの充実(日本電子出版協会が4月1日に公開した「Minimal Requirements on EPUB for Japanese Text Layout」が参考文献としてリンクされています)
  3. 雑誌や新聞などの個々の記事に対するサポートの充実
  4. メタデータに対するサポートの充実
  5. ページ単位のレイアウトを伝達する手段、ディスプレイサイズが異なっても1つの出版物で対応できる手段
  6. ナビゲーションサポートの充実
  7. 広く行き渡っているWeb標準との整合性の確保
  8. 注釈のサポート
  9. 数式のネイティブサポート
  10. 本に特異的な要素(用語集、リファレンス等)のサポート
  11. アクセシビリティのサポート
  12. 個々の産業が固有の拡張を加えられるようにするためのメカニズム
  13. 承認された国内・国際標準との関係性の明確化
  14. 広告を取り込むためのメカニズム

1〜13はドラフト0.8でも言及されていた項目で、ドラフト0.10では14番目の項目が追加されたようです。

現在は問題点が列挙されている段階で、いつ仕様として公開されるのかははっきりしません。しかし、EPUBのワーキンググループは、その重要性が以前より高まり、世界的にも注目されていることを十分に認識していると思いますので、かなり早い時期にEPUB 2.1(場合によっては3.0?)を仕様として固めるのではないでしょうか。

参考:

※適当に意訳していますので、間違いがあるようでしたらご指摘ください。

「MobileMeを無料化?」するのは筋が通っている

土曜日, 5月 8th, 2010

Appleはクラウド化に向けて大きく前進する?

AppleがMobileMeを無料化するという噂が流れているようです。第一報を報じたのはMac Rumorsのようですが、私は、iPhone 3G Wiki blogさんmaclalala2さんの記事で知りました。

Appleのこれまでの動きは、MobileMeを有料化していた、iPod/iPhone/iPadに対して母艦を必要としたという点で、クラウド化に対して今ひとつちぐはぐでしたが、近い将来MobileMeが本当に無料化されるとしたら、これで一本筋の通った形になるでしょう。

MobileMeが無料化されたらどう変わるのか? いくつか予想してみたいと思います。

1)母艦が必要なくなる
Mac/Windowsといった母艦が必要なくなり、MobileMeが「母艦」になる可能性があります。ただし、その前提として、現在欠けているピース──つまり、無線LANによる同期──が埋められなければなりません。

2)iWork.comが統合される
今やほとんど忘れられているサービスとして、iWork.comがあります。現在、β版で、提供されているサービス自体たいしたことはありませんが(主としてiWorkファイルの共有のみ)、当然、このサービスは統合され、新しいMobileMeで提供されるサービスのひとつになるでしょう。

3)ソーシャルメディアになる
現在のMobileMeはソーシャルメディアの機能が不十分です。実際、Appleはこれまで自らソーシャルメディアを提供せず、iPhotoのおけるFacebook、Flickrとの連携にみるように、他のソーシャルメディアと連携するアプローチをとってきました。

しかし、MobileMeが無料化されれば、Mac/iPod/iPhone/iPadユーザは気軽にMobileMeを利用できるようになります。「Apple」という巨大なブランドによって束ねられたユーザ群はMobileMeという「場」に統合され、魅力的なソーシャルメディアになりうる可能性を秘めています。実際、iPhone OS 4.0に搭載されるソーシャルゲームプラットフォーム「Game Center」は、その方向性を示唆しているのではないでしょうか。iWork.comが統合され、さらに機能が付加されれば、文書共有サービスScribdと同様のサービスを提供することも可能になります。

もっとも、既存のソーシャルメディアに対抗しうるサービスを一気に用意するのは困難です。MobileMeが無料化された後、ソーシャルメディアとしての機能が少しずつ付加されていくと思われます。

4)コンテンツへのアクセス権だけを購入する時代が来る
コンテンツ保持者にとって、ダウンロード販売は諸刃の刃でした。例えば、音楽レーベル各社にとって、CDの販売減や違法ダウンロードに対する対策としてiTunes Storeの話に乗ったわけですが、コンテンツのデータがローカルのPCに保持されるという状況はレーベル各社にとって決して好ましいものではありません。

しかし、クラウド化が進めば、コンテンツのデータは常にサーバ側にあり、ユーザはそれに対するアクセス権だけを購入するという形態が可能になります。コンテンツ保持者のとって、これほど望ましい販売形態はありませんし、ユーザにとっても、ネットワーク接続環境がある限り、いつでもどこでもコンテンツにアクセスできるため、利便性が損なわれることはありません。

ただし、音楽だったらCDに残しておきたいというニーズは存在し続けます。コンテンツの販売形態は、コンテンツへのアクセスだけが可能なケース、コンテンツのダウンロードとアクセスが両方可能なケースといった具合に2つに分かれ、前者の価格は後者よりも安く設定されるのではないでしょうか。

     *     *     *

予想される主なシナリオはこんなところです。もちろん、予想の前提となっている「MobileMeの無料化」は単なる噂なので、ここに書いてきたことはまだ空想の域を出ません。

しかし、今年4月、Appleが第2四半期の業績を発表する際、Jobsは、「今年中にはさらに素晴らしい製品をいくつか計画しています。と述べています。「MobileMeの無料化」がそのなかのひとつだとしたら……ユーザにとってこのうえないプレゼントになることは間違いないでしょう。

再定義された「The Computer for the Rest of Us」としてのiPad

金曜日, 5月 7th, 2010

普通の人々にとっての「コンピュータ」とは

今日、いつものようにブログを巡回していたら、気になる記事を2つ見つけました。1つは、iPadの登場でネットブックの成長率に陰りが見えてきたという記事、もう1つは、EMCの副社長、Chuck Hollis氏がブログに書いたもので、自宅用にiPadを購入したら家族がPCを使わなくなったという記事です。Chuck Hollis氏は踏み込んで、「今度デスクトップやラップトップを購入するとは思えない」とも書いています。

古くからのMacユーザーであれば、Macが登場した頃、「The Computer for the Rest of Us」(普通の人々のためのコンピュータ)というキャッチコピーが使われたことを覚えているでしょう。当時はPCの黎明期で、PCをコマンドで操作しなければならない時代でした。しかし、新しく登場したMacはマウスやGUIの概念を導入し、従来のPCのイメージを変革します。それ以来今日に至るまで、PCの操作法自体大きく変化していないことは、改めて指摘するまでもありません。

1980年代と比較して、今日のPCの性能はハードウェア的にもソフトウェア的にも飛躍的に向上し、PCであらゆることができるようになっています。しかし、一方でそれは、PCに複雑さの増大をもたらし、「the Rest of Us」(普通の人々)がPCをフルに使いこなせないようになっていました。iPadはまさにそんなタイミングで登場してきたわけです。

iPadはまだできることが限られているため、当面はネット接続用のセカンドマシンとして登場したネットブックの市場と、ラップトップ市場の一部を侵食するにとどまるものと思われます。今後さらにOSとハードウェアの性能が向上した段階でも、iPadがPC市場を完全に置き換えてしまうことはないでしょう。

しかし、PCをコンテンツ消費端末の目的で購入していた人々にとっては、ファイルシステムの内部を自由に探索できず、余分な複雑さのそぎ落とされた(というよりは、ブラックボックス化されている)「不自由な」iPadが、逆に魅力的な選択肢となります。Appleは、指という人間にとってより自然なインタフェースを使うことで、「The Computer for the Rest of Us」を再定義したのです。

参考:

「Wolfram|Alpha for eBooks」は電子専門書籍を変える

土曜日, 5月 1st, 2010

「Wolfram|Alpha」は動的な百科事典

それでは、前回の続き──つまり、「Wolfram|Alpha for eBooks」が電子専門書籍をどう変えるのかについてお話しします。もっとも、「Wolfram|Alpha for eBooks」は「Wolfram|Alpha」のAPIにすぎません。その可能性について語る場合、Wolfram|Alphaとは何か、どんなサービスなのかについて、お話しした方が早いでしょう。

Wolfram|AlphaはWolfram Research社が開発した、次世代の検索エンジンです。「検索エンジン」という表現はIT Mediaのニュースに従ったもので、Wolfram|Alphaは2009年5月に一般公開されました。

ただし、GoogleやYahoo!のような一般的な検索エンジンとは大きく異なった点があります。それは、キーワードを入力した際、それを含むWebページを検索結果として返すのではなく、キーワードに付随する回答を返すということです。そのため、ウィキペディア日本語版では、Wolfram|Alphaのことを「質問応答システム」と表現しています。イメージとしては百科事典──それも、質問するたびに回答がダイナミックに生成される動的な百科事典──と考えていただいた方が近いかもしれません。

「Wolfram|Alpha for eBooks」が促す書籍の「Web化」

試しに、googleとWolfram|Alphaで同じキーワードを入力し、その結果がどう違うのか、比較してみましょう。残念なことに、Wolfram|Alphaはまだ日本語に対応していないので、英語で「glutamic acid」(アミノ酸の一種、グルタミン酸)と入力してみます。

googleの検索結果

googleの検索結果

Wolfram|Alphaの検索結果

Wolfram|Alphaの検索結果

googleの方は、ウィキペディア(英語版)の「Glutamic acid」の解説ページがトップに表示され、ベルリン自由大学、eVitaminsというオンラインショップの「Glutamic acid」の解説ページ、「Glutamic acid」の画像(組成式、構造式等)といった具合に結果が続きます。一方、Wolfram|Alphaの方は、冒頭部分に「化合物のグルタミン酸のことを尋ねられたと仮定しました」(意訳しています)という断り書きがあり、以下、組成式、構造式、3D構造、IUPAC名、分子量、融点、沸点等々グルタミン酸に関連した定性的・定量的な情報が網羅されています。一般の人にとってあまり必要な情報ではありませんが、専門家にとっては重要な情報ばかりであることがおわかりいただけるでしょう。それも、情報が1画面に集約されているのですから、これほど便利なものはないというわけです。

Wolfram|Alphaが有用なのは、理系のみにとどまりません。例えば、「toyota」で検索してみると、トヨタ自動車の財務データや株価の変動グラフなど、投資家にとって有用な情報が一覧されますし、「highest mountaion in Japan」(日本で一番高い山は?)と入力すると、富士山を筆頭に、日本で高い山のベスト5が列挙されます。

そして、Wolfram|AlphaのAPI(「Wolfram|Alpha for eBooks」)が電子書籍ベンダー向けにリリースされるということは、このWolfram|Alphaの機能を、電子書籍から自由に呼び出せることを意味します。先ほどの例で言えば、従来の出版物の場合、グルタミン酸の立体構造式は書籍ごとに図としてトレースしなければなりませんでしたし、グルタミン酸の物性値なども、文字としてその都度入力する必要がありました。しかし、Wolfram|AlphaのAPIを活用すれば、これらの文字を入力したり、図としてトレースしたりする必要がなくなります。単にAPIでWolfram|Alphaの機能を呼び出せば済むことですから──。

Webの世界では、1つの画面が様々なサイトの情報の集約によって構成されていることが珍しくありません。「Wolfram|Alpha for eBooks」は、書籍の「Web化」を促し、書籍の作り方を変える可能性を秘めているのです。

追記:
前述したように、Wolfram|Alphaはまだ日本語に対応していないので、そのAPIが公開されても、日本語の電子専門書籍上での利用は限定的にならざるをえません。Wolfram|Alphaが早く日本語に対応することを切に望みます。