【お知らせ】医師・薬剤師向け漢方処方ナビゲーション・ツール『プロ漢方』がiPhoneアプリで登場
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医師・薬剤師向けの漢方処方ナビゲーション・ツール『プロ漢方』が、iPhone/iPod touchアプリとして登場しました。『プロ漢方』には、薬価収載された処方をはじめ、全344処方の解説が収録されており、弊社はこの『プロ漢方』の編集を担当しました。著者は、現在、社団法人日本東洋医学会副会長を務めておられる秋葉哲生先生です(発行所は株式会社オポチュニット)。
『プロ漢方』には秋葉先生の臨床エッセンスが詰まっており、医師や薬剤師の方々には、医療の現場ですぐにご活用いただくことができます。主な機能等詳しくお知りになりたい方は、発行所のお知らせの画面をご覧ください。内容・機能等をすでにご存じで、iTunes Storeからダウンロードされたい方は、以下のボタンをクリックしてください(iTunesが起動します)。
『プロ漢方』商品説明ページ(発行所のサイト)
『プロ漢方』のスクリーンショット(一部)
Muromachi @ 6月 2, 2010
【実験】「涅槃」を使って、EPUBファイルを縦組みで表示できるか?
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縦書き文庫さんが開発されている、JavaScriptの縦組み用組版エンジン「涅槃」を使って、現行のEPUBファイルを縦組み表示できるかどうかを試してみました。実験に使用したデータは、青空文庫の書籍データをもとに、イーストさんが生成されたEPUBファイルで、「青雲(AoKumo) ◆青空文庫 on クラウド◆」で公開されている夏目漱石の『二百十日』です。
作業手順
- 上述したサイトより、「涅槃」(現在の最新版は「nehan-1.0.5.3-rev2.zip」)と『二百十日』のEPUBファイル(east.aozora.751.epub)をダウンロード。
- 「nehan-1.0.5.3-rev2.zip」を解凍(生成されたフォルダは「nehan-latest」)。同様に、「east.aozora.751.epub」の拡張子をzipに変更して解凍(生成されたフォルダは「east.aozora.751」)。
- 「east.aozora.751」直下にあった「751.ncx」と「751.opf」を、「east.aozora.751」フォルダ直下の「OEBPS」フォルダ内に移動(この作業は特に必要ないですが、単に気持ちの問題で移動しました)。
- 「east.aozora.751」フォルダ直下の「OEBPS」フォルダ内に「js」フォルダを作成し、その中に、「nehan-latest」に含まれているJavaScriptファイルを移動。また、「nehan-latest」の「img」フォルダを「OEBPS」フォルダ内に移動。
- opfファイルを「OEBPS」フォルダ内に移動してしまったので、「container.xml」のopfファイルのパスを変更(図1)。
- 「751.opf」ファイルを開き、「default.css」と「751.html」のパスを変更。また、「涅槃」から持ってきたファイル群は「751.opf」ファイルでパスも含めて指定しなければならないので、
item
要素として追加(図2と図3)。 - 「縦書き文庫の開発日誌 カンタン!縦書きブログの作り方」の「step2」の指示に従って、コンテンツの本体のファイルである「751.html」の
</head>
の直前にタグを追加。その際、JavaScriptと画像が格納されているパスを、それぞれ現行のデータ構造に合わせて修正しました。また、「east.aozora.751.epub」にはもともとIPAモナーフォントが埋め込まれていたので、fontFamily
もipampmona
に変更しました。 - 「縦書き文庫の開発日誌 カンタン!縦書きブログの作り方」の「step3」の指示に従って、縦書き表示したい部分を
<div class="lp-vertical">
で囲みました(図4/今回はとりあえず本文のみで、図には
</div></div>
タグが見えていません)。 - 「east.aozora.751」をZIPで圧縮し直します。その際の注意点は、横浜工文社さんが書かれているように、「metafile」をZIPアーカイブの先頭に含めるようにすることです(OCF 1.0の仕様書でそう定められている)。
生成されたEPUBデータをリーダーで見てみる
生成されたEPUBデータを見るリーダーですが、「涅槃」は、IE6-8、Firefox3.5-3.6、Google Chrome、Opera、Safari4でテストされているようなので、ブラウザに組み込めるEPUBリーダー──具体的にはFirefoxのアドオン「EPUBReader」で見てみました(図5)。タイトルまわりは何もしなかったので横組みのままですが、本文はちゃんと縦組みになり、ルビもきちんと表示されました。
ちなみに、同じファイルを「Adobe Digital Editions」で開いてみたところ、JavaScriptが無視され、横組み表示のままだったのに対して(図6)、「Caribre」では縦組み表示することができました(図7)。ただし、「Caribre」の方は書体が無視されているようです。
実験後記
今回、実験を思い立った直接のきっかけは、現在のEPUB 2.0で縦組みがサポートされていない中で、なんとか縦組みを実現できないか? と考えたことです。現在、数多くのEPUBリーダーが世界中で開発されており、日本語表示も可能ですが、リーダーによって見え方の差が激しく、「これぞ決定版」と言えるようなソフトはまだありません。そうした中、ブラウザで縦組み表示を実現する組版エンジン「涅槃」があることをたまたま知り、「これを使えば、今でもEPUBファイルを縦組みで見られるのではないか?」と考えたわけです。
結果は、Firefoxのアドオン「EPUBReader」と「Caribre」が○で、「Adobe Digital Editions」が×でした。なぜ「Adobe Digital Editions」ではダメなのか? エンジニアではないので、技術的に詳しいことはわかりません。ただ、現行の環境においても、「涅槃」を使えば一部のリーダーソフトで縦組み表示できることがひとまずわかりました(iPadは持っていないので、iBookでは試すことができません。どうもすいません)。
国際電子出版フォーラム(IDPF)のEPUBワーキンググループには、現在、日本語組版に対する要望が提出されており、将来、EPUB 2.1(あるいはEPUB 3.0?)が策定された暁には正式に日本語組版に対応するのでしょう。しかし、EPUBのコンテンツ自体は、XHTML 1.1/CSS 2のサブセットにすぎないので、日本語組版に正式対応するのはHTML 5/CSS 3の正式策定を待たなければならないかもしれません。「それまで待つ」のはひとつの考え方としてありですが、現在利用できるものを活用、進化させながら積極的に動いていくこともありなのではないでしょうか。
追記:
- 縦書き文庫さん、イーストさん、横浜工文社さん、ありがとうございました。
- きれいにレイアウトすることを目的とした実験ではないのでご了承ください。
Muromachi @ 5月 13, 2010
AppleはiTunes Storeの審査基準を早く国別に定めるべき
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講談社がAppleのiTunes Storeに申請した電子書籍のうち、約30%がリジェクトされたようです。それも、日本で許容される表現がAppleの基準では不可。詳しくはこちらの記事を参照してください。
以前、アダルトアプリがiTunes Storeから一斉削除されて話題になりましたが、日本でまったく問題ない表現さえ許容されないとなると、Appleファンの私でもさすがに頭を抱えます。iPadは日本でも大ブレイクしそうですし、日本においてマンガはiPadを購入する大きな動機づけとなるだけに、Appleのこの方針は残念でなりません。
Appleは、米国一律の基準を国別の基準に早く改めるべきです。文化は当然国ごとに異なるわけですから、一律の基準を押し付けるのは少々無理があると言えましょう。iTunes Storeで入手できるアプリは国別に違うわけですし、審査基準を国ごとに設けることぐらい造作もないはずです。そうしないと、出版社はiPhone/iPad向けにコンテンツを提供することに腰が引けてしまいますし、そもそもマンガ家の方々がiTunes Storeにコンテンツを出品しなくなるでしょう。
追記:
以前、hon.jpでこんな記事が流れました。
- 米AppleがiPhone上でのアプリ大量削除をちょっと反省? App Store上でアダルト専用カテゴリの設置を検討中
- 米Apple社、iBooksアプリの電子書籍ジャンル分けに注力、MangaはGraphic Novelsの1分野に
私は「検閲」に対して基本的に反対ですから、アダルト専用カテゴリの設置には賛成票を投じます。また、マンガの中には青少年向けとして不適切なものがありますから、これらもアダルト専用カテゴリに入れてしまえばよいでしょう。こちらについても、Appleには早急に対応していただきたいものです。
Muromachi @ 5月 12, 2010
EPUB 2.1ドラフト0.10が公開
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問題点が1つ追加されたドラフト0.10
国際電子出版フォーラム(IDPF)が、EPUB 2.1のドラフト0.10を4月27日に公開していたようです。ドラフト0.8が公開されたのは4月6日ですから、この速さには少々驚きです。
ドラフト0.8では問題点が13項目列挙されていたのに対して、ドラフト0.1では14項目に増えています。以下、ざっと紹介しましょう。
- リッチメディアやインタラクティビティのサポート
- 日中韓などの言語に対するサポートの充実(日本電子出版協会が4月1日に公開した「Minimal Requirements on EPUB for Japanese Text Layout」が参考文献としてリンクされています)
- 雑誌や新聞などの個々の記事に対するサポートの充実
- メタデータに対するサポートの充実
- ページ単位のレイアウトを伝達する手段、ディスプレイサイズが異なっても1つの出版物で対応できる手段
- ナビゲーションサポートの充実
- 広く行き渡っているWeb標準との整合性の確保
- 注釈のサポート
- 数式のネイティブサポート
- 本に特異的な要素(用語集、リファレンス等)のサポート
- アクセシビリティのサポート
- 個々の産業が固有の拡張を加えられるようにするためのメカニズム
- 承認された国内・国際標準との関係性の明確化
- 広告を取り込むためのメカニズム
1〜13はドラフト0.8でも言及されていた項目で、ドラフト0.10では14番目の項目が追加されたようです。
現在は問題点が列挙されている段階で、いつ仕様として公開されるのかははっきりしません。しかし、EPUBのワーキンググループは、その重要性が以前より高まり、世界的にも注目されていることを十分に認識していると思いますので、かなり早い時期にEPUB 2.1(場合によっては3.0?)を仕様として固めるのではないでしょうか。
参考:
- IDPF EPUB Revision Working Group Charter 27 April 2010
- Minimal Requirements on EPUB for Japanese Text Layout
※適当に意訳していますので、間違いがあるようでしたらご指摘ください。
Muromachi @ 5月 8, 2010
「MobileMeを無料化?」するのは筋が通っている
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Appleはクラウド化に向けて大きく前進する?
AppleがMobileMeを無料化するという噂が流れているようです。第一報を報じたのはMac Rumorsのようですが、私は、iPhone 3G Wiki blogさん、maclalala2さんの記事で知りました。
Appleのこれまでの動きは、MobileMeを有料化していた、iPod/iPhone/iPadに対して母艦を必要としたという点で、クラウド化に対して今ひとつちぐはぐでしたが、近い将来MobileMeが本当に無料化されるとしたら、これで一本筋の通った形になるでしょう。
MobileMeが無料化されたらどう変わるのか? いくつか予想してみたいと思います。
1)母艦が必要なくなる
Mac/Windowsといった母艦が必要なくなり、MobileMeが「母艦」になる可能性があります。ただし、その前提として、現在欠けているピース──つまり、無線LANによる同期──が埋められなければなりません。
2)iWork.comが統合される
今やほとんど忘れられているサービスとして、iWork.comがあります。現在、β版で、提供されているサービス自体たいしたことはありませんが(主としてiWorkファイルの共有のみ)、当然、このサービスは統合され、新しいMobileMeで提供されるサービスのひとつになるでしょう。
3)ソーシャルメディアになる
現在のMobileMeはソーシャルメディアの機能が不十分です。実際、Appleはこれまで自らソーシャルメディアを提供せず、iPhotoのおけるFacebook、Flickrとの連携にみるように、他のソーシャルメディアと連携するアプローチをとってきました。
しかし、MobileMeが無料化されれば、Mac/iPod/iPhone/iPadユーザは気軽にMobileMeを利用できるようになります。「Apple」という巨大なブランドによって束ねられたユーザ群はMobileMeという「場」に統合され、魅力的なソーシャルメディアになりうる可能性を秘めています。実際、iPhone OS 4.0に搭載されるソーシャルゲームプラットフォーム「Game Center」は、その方向性を示唆しているのではないでしょうか。iWork.comが統合され、さらに機能が付加されれば、文書共有サービスScribdと同様のサービスを提供することも可能になります。
もっとも、既存のソーシャルメディアに対抗しうるサービスを一気に用意するのは困難です。MobileMeが無料化された後、ソーシャルメディアとしての機能が少しずつ付加されていくと思われます。
4)コンテンツへのアクセス権だけを購入する時代が来る
コンテンツ保持者にとって、ダウンロード販売は諸刃の刃でした。例えば、音楽レーベル各社にとって、CDの販売減や違法ダウンロードに対する対策としてiTunes Storeの話に乗ったわけですが、コンテンツのデータがローカルのPCに保持されるという状況はレーベル各社にとって決して好ましいものではありません。
しかし、クラウド化が進めば、コンテンツのデータは常にサーバ側にあり、ユーザはそれに対するアクセス権だけを購入するという形態が可能になります。コンテンツ保持者のとって、これほど望ましい販売形態はありませんし、ユーザにとっても、ネットワーク接続環境がある限り、いつでもどこでもコンテンツにアクセスできるため、利便性が損なわれることはありません。
ただし、音楽だったらCDに残しておきたいというニーズは存在し続けます。コンテンツの販売形態は、コンテンツへのアクセスだけが可能なケース、コンテンツのダウンロードとアクセスが両方可能なケースといった具合に2つに分かれ、前者の価格は後者よりも安く設定されるのではないでしょうか。
* * *
予想される主なシナリオはこんなところです。もちろん、予想の前提となっている「MobileMeの無料化」は単なる噂なので、ここに書いてきたことはまだ空想の域を出ません。
しかし、今年4月、Appleが第2四半期の業績を発表する際、Jobsは、「今年中にはさらに素晴らしい製品をいくつか計画しています。と述べています。「MobileMeの無料化」がそのなかのひとつだとしたら……ユーザにとってこのうえないプレゼントになることは間違いないでしょう。
Muromachi @ 5月 8, 2010
再定義された「The Computer for the Rest of Us」としてのiPad
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普通の人々にとっての「コンピュータ」とは
今日、いつものようにブログを巡回していたら、気になる記事を2つ見つけました。1つは、iPadの登場でネットブックの成長率に陰りが見えてきたという記事、もう1つは、EMCの副社長、Chuck Hollis氏がブログに書いたもので、自宅用にiPadを購入したら家族がPCを使わなくなったという記事です。Chuck Hollis氏は踏み込んで、「今度デスクトップやラップトップを購入するとは思えない」とも書いています。
古くからのMacユーザーであれば、Macが登場した頃、「The Computer for the Rest of Us」(普通の人々のためのコンピュータ)というキャッチコピーが使われたことを覚えているでしょう。当時はPCの黎明期で、PCをコマンドで操作しなければならない時代でした。しかし、新しく登場したMacはマウスやGUIの概念を導入し、従来のPCのイメージを変革します。それ以来今日に至るまで、PCの操作法自体大きく変化していないことは、改めて指摘するまでもありません。
1980年代と比較して、今日のPCの性能はハードウェア的にもソフトウェア的にも飛躍的に向上し、PCであらゆることができるようになっています。しかし、一方でそれは、PCに複雑さの増大をもたらし、「the Rest of Us」(普通の人々)がPCをフルに使いこなせないようになっていました。iPadはまさにそんなタイミングで登場してきたわけです。
iPadはまだできることが限られているため、当面はネット接続用のセカンドマシンとして登場したネットブックの市場と、ラップトップ市場の一部を侵食するにとどまるものと思われます。今後さらにOSとハードウェアの性能が向上した段階でも、iPadがPC市場を完全に置き換えてしまうことはないでしょう。
しかし、PCをコンテンツ消費端末の目的で購入していた人々にとっては、ファイルシステムの内部を自由に探索できず、余分な複雑さのそぎ落とされた(というよりは、ブラックボックス化されている)「不自由な」iPadが、逆に魅力的な選択肢となります。Appleは、指という人間にとってより自然なインタフェースを使うことで、「The Computer for the Rest of Us」を再定義したのです。
参考:
- Tech Wave:iPad登場でネットブックに大打撃【湯川】
(出典:How the iPad gobbles up netbook sales – Apple 2.0 – Fortune Tech) - わが家に iPad がやって来た « maclalala2
(出典:What iPads Did To My Family – Chuck’s Blog)
Muromachi @ 5月 7, 2010
「Wolfram|Alpha for eBooks」は電子専門書籍を変える
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「Wolfram|Alpha」は動的な百科事典
それでは、前回の続き──つまり、「Wolfram|Alpha for eBooks」が電子専門書籍をどう変えるのかについてお話しします。もっとも、「Wolfram|Alpha for eBooks」は「Wolfram|Alpha」のAPIにすぎません。その可能性について語る場合、Wolfram|Alphaとは何か、どんなサービスなのかについて、お話しした方が早いでしょう。
Wolfram|AlphaはWolfram Research社が開発した、次世代の検索エンジンです。「検索エンジン」という表現はIT Mediaのニュースに従ったもので、Wolfram|Alphaは2009年5月に一般公開されました。
ただし、GoogleやYahoo!のような一般的な検索エンジンとは大きく異なった点があります。それは、キーワードを入力した際、それを含むWebページを検索結果として返すのではなく、キーワードに付随する回答を返すということです。そのため、ウィキペディア日本語版では、Wolfram|Alphaのことを「質問応答システム」と表現しています。イメージとしては百科事典──それも、質問するたびに回答がダイナミックに生成される動的な百科事典──と考えていただいた方が近いかもしれません。
「Wolfram|Alpha for eBooks」が促す書籍の「Web化」
試しに、googleとWolfram|Alphaで同じキーワードを入力し、その結果がどう違うのか、比較してみましょう。残念なことに、Wolfram|Alphaはまだ日本語に対応していないので、英語で「glutamic acid」(アミノ酸の一種、グルタミン酸)と入力してみます。
googleの方は、ウィキペディア(英語版)の「Glutamic acid」の解説ページがトップに表示され、ベルリン自由大学、eVitaminsというオンラインショップの「Glutamic acid」の解説ページ、「Glutamic acid」の画像(組成式、構造式等)といった具合に結果が続きます。一方、Wolfram|Alphaの方は、冒頭部分に「化合物のグルタミン酸のことを尋ねられたと仮定しました」(意訳しています)という断り書きがあり、以下、組成式、構造式、3D構造、IUPAC名、分子量、融点、沸点等々グルタミン酸に関連した定性的・定量的な情報が網羅されています。一般の人にとってあまり必要な情報ではありませんが、専門家にとっては重要な情報ばかりであることがおわかりいただけるでしょう。それも、情報が1画面に集約されているのですから、これほど便利なものはないというわけです。
Wolfram|Alphaが有用なのは、理系のみにとどまりません。例えば、「toyota」で検索してみると、トヨタ自動車の財務データや株価の変動グラフなど、投資家にとって有用な情報が一覧されますし、「highest mountaion in Japan」(日本で一番高い山は?)と入力すると、富士山を筆頭に、日本で高い山のベスト5が列挙されます。
そして、Wolfram|AlphaのAPI(「Wolfram|Alpha for eBooks」)が電子書籍ベンダー向けにリリースされるということは、このWolfram|Alphaの機能を、電子書籍から自由に呼び出せることを意味します。先ほどの例で言えば、従来の出版物の場合、グルタミン酸の立体構造式は書籍ごとに図としてトレースしなければなりませんでしたし、グルタミン酸の物性値なども、文字としてその都度入力する必要がありました。しかし、Wolfram|AlphaのAPIを活用すれば、これらの文字を入力したり、図としてトレースしたりする必要がなくなります。単にAPIでWolfram|Alphaの機能を呼び出せば済むことですから──。
Webの世界では、1つの画面が様々なサイトの情報の集約によって構成されていることが珍しくありません。「Wolfram|Alpha for eBooks」は、書籍の「Web化」を促し、書籍の作り方を変える可能性を秘めているのです。
追記:
前述したように、Wolfram|Alphaはまだ日本語に対応していないので、そのAPIが公開されても、日本語の電子専門書籍上での利用は限定的にならざるをえません。Wolfram|Alphaが早く日本語に対応することを切に望みます。
Muromachi @ 5月 1, 2010
専門書にとって電子化するメリットは大きい
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電子書籍ブーム再来
Apple社がiPadを発表して以来、日本では電子書籍が再び注目されるようになってきました。
皆さんもご存じのように、日本でもかつて、松下やソニーが電子書籍専用端末を販売していました。両社が電子書籍専用端末を販売し始めたのは2004年ですが、コンテンツが少ない、専用端末として見た場合に端末価格が高すぎるなどの様々な理由から、端末は当時ほとんど売れませんでした。その結果、両社はこの市場から2007~2008年頃に撤退してしまい、今日に至るまで、日本では、携帯電話向けの電子書籍が独自の発展を遂げてきたのが実情です。
それでは、今回の電子書籍ブームは、一時的な流行に終わることはないのでしょうか? 電子書籍市場が本格的に立ち上がり、あらゆるジャンルの電子書籍が、年代を問わずにiPadのような端末上で読まれるようになるのでしょうか? これについてはすでに数多くの識者が論じているので、私が付け加えることは特に何もありませんが、理系出身で、専門書の編集も手がけているという立場から、ひとつだけ発言したいと思います。それは、専門家向けの本の場合、電子化するメリットが大きいということです(専門家向けの電子書籍を仮に電子専門書籍と呼ぶようにします)。
専門書が電子化されるメリット
理系の学生さんや研究者の方であればご存じのように、専門書の中には、やたらと分厚くて重い本が少なくありません。例えば、私が学生時代に購入した“Molecular Biology of the Cell”(初版本)は総ページ数が1200ほどあり、気軽に持ち運んで読むような代物ではありませんでした。また、私が編集協力した情報セキュリティのテキスト『CISSP認定試験公式ガイドブック』も同様で、トータル1100ページ以上あります。つまり、これらが電子化され、どこでも気軽に読めるようになることは、重い専門書の持ち運びに辟易している読者にとって、計り知れないメリットとなるわけです。
電子専門書籍の場合、紙の本では得られないメリットがもうひとつあります。それは、紙では不可能なことを表現することができ、教育上の効果も高いことです。
静止イラストだけではわかりにくい内容なら、映像や音声を交えて説明すれば、よりわかりやすくなるでしょう。また、立体図形をイメージするのが苦手な読者にしてみれば、オブジェクトを360度回転でき、どの方向からでも見られるようになっていたら、立体図形のイメージを把握しやすくなるはずです。電子書籍はアプリとして作り込むことも可能なので、入力する初期値を変えて、その結果を端末上でシミュレーションすることもできるでしょう。……いかがです? もうお気づきの方がいるかもしれませんが、これらのメリットは、「マルチメディア」という言葉が流行し、CD-ROMのメリットとして挙げられていたことと基本的に同じではないでしょうか。CD-ROMの制作も手がけたことがある私にとって、既視感以外のなにものでもありません。まさに歴史は繰り返す、です。
しかし、当時と決定的に異なるのは、iPadのように、指という人間にとって自然なインタフェースで端末を操作すること、高性能なモバイル端末が登場したこと、デジタルコンテンツをダウンロード購入する行為が一般化していることが挙げられるでしょう。また、ソーシャルメディアが爆発的に普及し、読者が相互にコミュニケーションしたり、「集う場」を組織化したりすることで、紙の本だけでは得られない「読書体験」を提供できるようになった点も大きいと思います。要するに、「超読書」とでも呼べるような新しい体験を受け入れる準備が、CD-ROM登場以降の十数年の間に、情報環境的にもそれと対面する私たちの側にもできていたわけです。
あとひとつ、電子専門書籍に限れば、米Wolfram Alpha社が今年の夏、「Wolfram|Alpha」のAPI(「Wolfram|Alpha for eBooks」)を電子書籍ベンダー向けにリリースすると発表したことも大きいでしょう。これについて書き始めるとまた長くなりそうなので、別の機会に触れるようにしますが、「Wolfram|Alpha for eBooks」は電子専門書籍を大きく変える可能性を秘めていると感じています。この点を最後に記し、今回は筆を擱きます。
参考:
- 電子書籍端末売れず──ソニーと松下が事実上撤退 – ITmedia News
- hon.jp DayWatch – 米Wolfram Alpha社、電子書籍ベンダー向け百科事典API「Wolfram|Alpha for eBooks」を今夏リリースへ
- Wolfram|Alpha Mobile Products
taki @ 4月 29, 2010